ヒマワキシティから東へ進む。
120番道路に広がる丈の高い草をかき分け、川辺までヘキは歩いた。
元々雨が多い場所ではあるが、今日は茶色い水が堤防スレスレを、轟音をたてて流れていく。
「すごい水量だ。アメタマを捕まえたら、すぐに帰らないと…」
草をかき分け、水面を眺めてアメタマを探す。
 大量発生のためか、程なく川岸に避難しているアメタマを見つけた。
「行け! カサッコ!」
ヘキはキノガッサを出し、アメタマに毒の胞子を浴びせる。
アメタマは毒を浴び、体力が少しずつ削られていく。
さらにヘキは、威力が低く、ばつぐんの効果を出さない攻撃で、焦らずヒットポイントを減らしていく。
アメタマも反撃をするが、水タイプの攻撃は、キノガッサにはほとんど効かない。
「今だ!」
ギリギリまで弱らせたアメタマに、スーパーボールを投げる。
少しだけ抵抗があったが、すぐにボールの動きが止まった。
うまくアメタマを捕まえた。
「お疲れ、カサッコ」
キノガッサをボールに戻し、アメタマが入ったボールを拾いに行く。
川のすぐ近くに転がったボールを拾ったユウキは、何気なく川を見た。
濁流の勢いは増し、先ほどより量が増えているようだ。
「早く帰ろう。まずはジングーを回復させないと」
アメタマを拾い、川岸から離れようとしたとき。

 いきなり突風がヘキを襲った。

川を背にしたヘキに、正面から強風がぶつかる。
風に押され、後ろによろめいたとき、足下の、川縁の土が崩れた。
「……!!」
何とかヘキは踏ん張ろうとしたが、雨で濡れた土と草のため、再び足を取られる。
体を支える余裕がないまま、ヘキはひっくり返るように濁流へと落ちていった。
(まずい! マリリンを出して波乗りを…)
ヘキは手探りで腰についているモンスターボールを取ろうとするが、激しいに流れに翻弄され、ボールに触れることすらできない。
まともに泳げず、あちこちの岩にぶつかりながら流されていく。
「うぐっ…!」
右足が固いものにぶつかる。川底にある、岩か何かだろう。
(せめて何かに捕まれれば)
息だけはできるように体制を整えていると、目の前に大きな倒木が見えた。
「ぐっ…!」
ぶつかるように倒木に捕まる。
木を伝い、何とか川岸まで這い上がる。
「ぐあっ!」
川岸に一歩上がったとき、右足に激痛が走った。
あまりの痛さに倒れ込むヘキ。
それでも何とか痛みを我慢し、ズボンの裾をたくし上げる。
くるぶしの上の辺りが紫色に腫れあがっていた。普段の倍はあるかと思われる腫れ。骨が折れているようだ。
先ほど、固いもの足をぶつけたときに折ったのであろう。
ヘキはどうにか四つんばで川岸から離れた。
「みんなは?」
ひとまずの安全を確保してから、腰にあるモンスターボールを確認する。
運良く全部付いていた。
「よかった…」
ポケモンの安全を確認したヘキは、痛む足を触り、怪我の状態を確認する。
骨は飛び出していないが、しっかりと折れているようだ。
ヘキは近くに転がっている木の棒を拾う。
リュックの中から救急箱を出し、中にある濡れた包帯を可能な限り絞ってから木の棒を添え、患部に巻いていく。
痛みが治まったわけではないが、できる限りの応急処置はした。
「ジングー」
 ヘキはボールからオオスバメを出し、すごい傷薬を使って、オオスバメの体力を回復させる。
「ジングー。疲れているだろうけど、町まで飛んでくれないか?」
オオスバメはうなずくと、大きく羽根を広げた。
ヘキを掴み、ゆっくりと飛び立つが、木のてっぺんを越えた辺りで雨と風に翻弄されてしまう。
何とか飛ぼうと羽根を動かすが、どうしてもうまく飛べない。
苦しそうにしているオオスバメを見て、ヘキは飛んで帰ることをあきらめた。
「ありがとう、ジングー。下りていいよ」
トレーナーの期待に応えられなかった為か、がっくりとしながらオオスバメは下りていく。
「落ち込むなよ。お前のせいじゃない。
 とりあえず台風が収まるまで、雨風を防げる場所を探そう」
オオスバメを戻し、痛む足をかばいながら、木々を伝って森の中に入る。
 しばらく移動すると、ひときわ大きな木がある場所に来た。大木は葉が茂り、周りはヘキの背丈くらいの草が囲んでいる。
比較的雨風が当たらないようなので、ヘキはここに避難した。
草が生え、木の幹がへこんでいるくぼみに座る。
「痛っ…」
右足の痛みが、先ほどよりひどくなっている。体は冷え切っているのに、そこだけ熱をもっている。
嵐は先ほどよりひどくなっているようだ。しばらく天気は好転しそうにない。
「せめて彼らだけでも助けたいんだけど…」
ボールの中の、疲れ切っているポケモン達を眺めながらつぶやく。
 しばらく考え込んでいたが、ヘキはびしょぬれになったリュックを下ろし、ひっくり返して水浸しになった道具を出し、極力リュックの水分を絞る。
「紙とペンは使えないか。きずぐすりは平気だな」
ありったけのきずぐすりを使ってポケモン達を回復させると、オオスバメ以外をボールに戻し、ボールをリュックにしまった。
「ジングー。みんなを連れて、ミシロタウンまで飛んでほしいんだ。無理なら近くの町まででいい。俺がいなければ飛べるだろう?」
オオスバメは不安げな表情でヘキを見る。
「大丈夫。お前がどこかの町にたどり着けば、俺が遭難していることに気付いてくれる。
 大変だけど耐えてほしい。できるか?」
しばらく迷っている様子のオオスバメだったが、力強くうなずいた。
「ありがとう。頼む、ジングー」
ヘキはリュックをオオスバメに持たせ、空に放つ。
オオスバメは名残惜しそうにヘキを見た後、嵐の中に消えていった。
「無事に着いてくれよ」
祈るような気持ちでオオスバメを見届けた後、ヘキは再びくぼみにおさまった。


←前へ 次へ→


ポケモントップ 物語トップ

サイトトップ