セイジは、怒っているもえぎのきゃしゃな肩をつかみ、ありったけの力で手元に引き寄せる。
「なっ…」
開きかけのもえぎの唇を、セイジは自分の唇でふさいだ。
「……!!」
突然の出来事に、ビクリと体をふるわせるもえぎ。
離れようと抵抗するが、さらにセイジは力を入れ、身動きがとれないようにする。
しばらくセイジはもえぎを押さえ込むようにキスをしていたが、苦しそうにしているもえぎに気付き、ゆっくりと唇を離した。
ぼうぜんとしていたもえぎだが、ハッと気付き、顔を真っ赤にして逃げるようにセイジから離れる。
(やばい…)
ゼエゼエと荒く呼吸をし、やはり顔を真っ赤にしているセイジ。
(とうとう…やっちまった)
ライバルであることを自ら壊した、言い訳できない行動。
今更どうあがいても取りつくろうことができない。

だからこそ、覚悟が決まった。

セイジの目に強い意志が宿る。
深呼吸を一つ。セイジは少しだけ気持ちを落ち着かせると、もえぎに一歩近づいた。
もえぎは、おびえるように一歩下がる。
(…仕方ねーか…)
おびえた目で自分を見るもえぎの行動が悲しかったが、当然の結果だと言い聞かせた。
「もえぎ」
ビクッと肩をふるわせるもえぎ。
しかし逃げたりはせず、まっすぐにセイジを見つめる。
とりあえず話は聞いてもらえそうだと判断したセイジは、そのまま言葉を続けた。
「俺たちはライバルか?」
予想外の問いだったのだろう。もえぎはキョトンとする。
「あ、あたしはそう思ってる…けど…」
「そっか」
複雑な表情を浮かべ、ため息をつくセイジ。
「じゃあ、もう少しライバルでいてくんねーか?」
「え?」
不思議そうにしているもえぎだが、セイジはそのまま話をする。
「俺は必ずポケモンリーグのチャンピオンになる。もえぎも絶対にリーグへ来い。
 リーグでは全力で戦う。約束するから。
 戦いが終わったとき…もえぎに伝えたいこと、ちゃんと言うから」
セイジは一気にしゃべると、もえぎの返事を聞かずに背を向け、チャンピオンロードに向かって歩き出した。

「セイジっ!」
セイジの背後から、もえぎの大きな声が響く。
歩みを止めず歩き続けるセイジに向かって叫んだ。
「あたし、負けないからね!」
いつもの勝ち気な笑顔とセリフ。

セイジは振り向かず、拳を空に向かって突き出した。


「自分からキスをしておきながら、勝手だよな」
もえぎの姿が見えなくなってから、セイジはつぶやく。
だけど、今のまま告白しても、もえぎも自分もスッキリしないだろう。

覚悟は決まった。
今は、戦うことだけを考えよう。
セイジは心の中でそう誓った。

「絶対に勝ってやるからな!!」


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