21番道路。 旅に出てから、最初に二人がバトルをした場所。
最初の戦いはセイジが勝利を収めた。
今は八つのバッチを持ち、お互い対峙している。
「チャンピオンリーグ前の最後の戦い…かしら」
さらに強くなり自信をつけたもえぎの勝ち気な笑顔は、セイジにとっていっそうまぶしく感じられる。
とまどうセイジだが、何とか気持ちを落ち着かせる。
「またここで負かしてやる」
「やってみなよ。前みたいにはいかないわよ!」
勝ち気な笑顔に勝ち気なセリフ。
ふたたびわき上がる感情を抑え、汗をかく手でモンスターボールを握るセイジ。
バトル開始。

戦い自体は一進一退。お互い引けを取っていないように見える。
だが…。
(見るな。もえぎを見るな!)
セイジは別の意味で必死になっていた。
油断すると、もえぎの動き・表情・声ひとつひとつに気を取られて、戦いがおろそかになる。
かといってトレーナーも見ないと状況は読み切れない。
何とかバトルをやろうと必死に取りつくろう。

「カメたろう、ロケットずつき!」
モタモタしている間に、カメックスの強烈な攻撃が来た。
ピジョットの体力はかなり残っている。
フェザーワルツで攻撃力をガクッと下げたので、ギリギリ攻撃に耐えられるはず。とセイジは読む。
ねらい通り、何とかピジョットは耐えた。
「戦えるならこっちのもの。でんこうせっか!」
カメックスより先にピジョットが攻撃をする。固い巨体が大きな音を立てて倒れる。
「これでおまえのポケモンはみんな戦闘不能だな」
どうにか競り勝ったセイジは、少し息を切らしつつ、もえぎに告げる。
が、もえぎはバカにしたような目でセイジを見る。
「何言ってるの?」
勝利を確信したセイジの目の前でモンスターボールを投げる。
「もう一体いるわよ! スズちゃん!」
ボールから、体力満タンのオニドリルが出現する。
「しまった!」
もえぎの手持ちポケモンと、ひん死状態になっているポケモンの数を、セイジは間違えていたのだ。
(なんて失敗だ)
体力がほとんどないピジョットを戦わせるわけにはいかないとセイジは判断し、今いるポケモンを引っ込める。
「交代だ、ウィンディ」
あわててボールを投げる。が、ウィンディは出てこなく、ボールがコロコロと転がっていく。
「開閉スイッチを押し忘れた!」
自分が立て続けに犯したミスに舌打ちをし、転がるボールを追いかける。
何とかボールに追いつき、拾おうとする。と、白い柔らかいものに手が触れた。
「何だ…?」
感触がした方を見ると、モンスターボールとセイジの手の間に、先に拾おうとしたもえぎの手があった。
「うわああああ!?」
間抜けな声をあげ、後ろに飛び退くセイジ。
(もえぎの手が、手が、手に触って…)
わたわたと焦るセイジ。そんな彼の行動を見たもえぎは、自分のボールを取り出した。
「戻って。スズちゃん」
開閉スイッチを押し、オニドリルがモンスターボールに吸い込まれる。
「……!?」
もえぎの意外な行動に、逆にセイジは少しだけ冷静になった。
「な、何だよ。負けを認めるのか?」
セイジの軽口にもえぎは答えず、冷たい目を向け、黙ったまま自分のボールをしまう。
「黙るなよ。言い訳くらいなら聞くぜ…」
「セイジ、本気で戦ってないでしょ」
キッパリと一言。セイジを見る目はつり上がり、目がギラギラしている。
誰が見ても怒っているとわかる。
(やべっ…)
「今回だけじゃない。以前の戦いから他のことに気を取られて、戦いに集中してないでしょう」
淡々と告げる言葉の、一言一言にトゲがある。
図星を指されて、セイジは内心かなり動揺した。
もえぎは、セイジが戦っているフリをしていることに、前々から気付いていたのだ。
もっとも、何に気を取られていたのかまでは気付いていないようだが。
「ど、どうして戦いに集中してないって思うんだよ…」
内心の動揺を抑え、何とか話そうとする。
「さっきの戦いを見ればわかるじゃない。
あたしの手持ちの数を間違えたり、開閉スイッチを押し忘れたり。
普通に戦っていればやるわけないミスでしょう」
「ちょっと油断しただけだよ。第一、おまえとのバトルで本気を出すわけないだろう?」
「じゃあどうして戦いを挑むの!?」
一転、声を荒げて言い返すもえぎ。
「そっちからバトルを仕掛けてきて、なのに他のことに気を取られて!何を考えてるの!?」
もえぎに見とれてました。とは口が裂けても言えるわけがない。
「あたしたちライバルじゃないの?」
もえぎが一歩詰め寄る。反射的にセイジは一歩下がる。
「ラ、ライバルでなければ何になるんだ?」
「それはこっちのセリフよっ!!」
さらに詰め寄るもえぎ。
セイジは下がろうとするが、崖にぶつかり下がることができない。
「あたしとセイジはライバルだって思ってる。だからセイジの実力を認めてるし、負けたくないから全力で戦ってる。
セイジもあたしをライバルって思ってるなら、それなりの戦いをしてよ!」
「だから、いちいちおまえと本気で…」
「いいかげんにしてよっ!!」
大声をあげるもえぎが、アップで迫る。
目前にあるもえぎの顔に、セイジはかなり動揺する。
「ちょっと待てもえぎ…」
「どうしたいのかハッキリして!」
「待てよ落ちつけって…」
「セイジが怒らせてるんでしょう!!」
セイジの目の前で、さらにもえぎが怒鳴る。
(頼む! あんまり近づかないでくれ!)
だが、もえぎの言葉は、セイジの耳には入ってこない。
アップになっているもえぎの白い肌と、涙がうかんでる大きな瞳と、少し低めの鼻と、小さな赤い唇ばかり目に入る。
立て続けに怒鳴られ、声を浴びせられ、思考がまとまらない。
もえぎの姿が、声が、セイジの理性を壊していく。
「何か言ったらどうなの!?」
さらに畳みかけるように、もえぎが怒鳴る。
(これ以上近づかないでくれ! 何も言わないでくれ! 頼む…頼むから!!)

「セイジ!!」

名前を叫ばれたセイジの頭の中で、何かがはじけた。


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