二人のポケモンが、一体、また一体と倒れていく。
残るはもえぎのライチュウとセイジのフシギバナのみ。
両方とも体力は残りわずか。回復アイテムも底をついた。
次の一撃で勝敗が決まる。
「ソーラービーム!」
「かみなり!」
二体の攻撃がぶつかり合う。白と虹色の光が辺りに炸裂し、周りが見えなくなる。
「フシギバナ!?」
「ちゅうた!?」
もうもうと煙が舞う中、大きなドシーンという音が響く。
視界が少しずつ晴れていく。
倒れているのは…フシギバナだった。
「負け…た」
セイジがぼうぜんとした顔でつぶやく。
「全力を出したのに…」
くやしさが、セイジの胸いっぱいに広がる。
しかし後悔はなかった。全力で戦って負けたのなら、どうしようもない。
「やったー! 勝った!!」
フラフラのライチュウに抱きつき、全身で喜ぶもえぎ。
新チャンピオンを見ながら、セイジはもう一つ着けなければいけない決着の事を考えていた。

ひとしきり喜んだもえぎは、ライチュウを手元に戻し、セイジの元へ来た。
もう逃げるわけにはいかない。

「あ、あのな…」
「セイジ」
穏やかな笑みを浮かべ、もえぎは右手を差し出す。
「全力で戦ってくれてありがとう」
「約束だからな」
おそるおそる手を差し出し、もえぎと握手をする。
暖かく柔らかい手。
セイジは心臓の高鳴りを感じると共に、相変わらずライバルとして接しているもえぎにいらついた。
手を離し、お互いに向き直る。
「あ、あの」
「セ、セイジ」
二人が同時に口を開く。
「あ…」
「えっと…」
「先にしゃべれよ、もえぎ」
話を聞いからでもいいかなと思い、セイジはもえぎを促す。
「え、あ、う…うん」
とまどいながらも、もえぎは相づちをうつ。
「セイジ…あ…あのね…」
とぎれとぎれに話すもえぎ。
緊張でこわばった顔は、下を向いている。心もちほおが赤い。
(ま…まさか…)
もえぎの態度に、思わずいい方向に考えがいってしまうセイジ。
音が聞こえるのではというくらい、心臓がバクバク動いているのがわかる。
意を決したのか、もえぎが顔を上げ、まっすぐにセイジを見つめながら口を開いた。

「どうして、あたしにキスしたの?」

バタッ。
あまりにズレた発言に、盛大にセイジは突っ伏してしまった。
「セ…セイジ?」
「あ〜の〜な〜」
クラクラする頭を押さえ、セイジが立ち上がる。
「何とも思ってないヤツにキスするわけねーだろーが!!」
「だ、だって…、あたしがうるさいから黙らせたかったのかなとか…」
「お前、本ッ当にポケモン以外のことは鈍いな!」
ズイと近づくセイジ。
びっくりしたもえぎは、思わず後ずさりをする。
「どうせ言おうと思ってたんだ。チャンピオン級に鈍いテメーにもわかるように言ってやる!
俺は、もえぎのことが…」
「セイジ! もえぎ!」
シュンと音を立てて入り口の扉が開き、最悪のタイミングでオーキド博士が飛び込んできた。
ふたたびバッタリと突っ伏してしまうセイジ。
「セイジがチャンピオンになったと聞いたから大急ぎで来たのに、もえぎが優勝してたとは!
…ん? セイジ。伏せ泣きするほどくやしかったのか?」
(違う意味で泣きたいよ)
心の中でオーキド博士に恨み言を並べつつ、気力を振り絞ってセイジは立ち上がった。
「セイジ? 大丈夫?」
「行ってこいよ」
何か言いたそうなもえぎをさえぎり、セイジが言う。
「え?」
「チャンピオンだろ。殿堂入りの部屋に行ってこいよ」
「…うん。わかった」
少し間をおいてから、もえぎがうなずく。
「セイジが伝えたかった事、後で教えてね」
屈託ない笑みを浮かべたもえぎは、オーキド博士と共に隣の部屋へと去っていった。

扉が閉じ、一人取り残されたセイジ。
「あいつ…本当にわかってねえのか…?」
誰に言うでもなく、ポツリとつぶやく。ドッと疲れが出る。
今まで必死になって気持ちを抑えてきた自分が、ものすごくバカらしくなってきた。
「むかつくから、もえぎが好きだって伝えるの、ずっと後にしてやろうか」
ため息まじりにつぶやくセイジ。
「それに」
セイジは腰についているモンスターボールを見た。
「ライバルもいいもんだしな」
もえぎがいる隣の部屋への扉を見つつ、セイジが言う。

先ほどの戦いを思い出す。
しのぎを削る戦いの中で感じた、心地よい緊張感と高揚感。
そしてもえぎの勝ち気な笑顔。

それでもいつか、もえぎに伝えようとセイジは思う。

「ライバルだけでなく、恋人になってほしい」と。


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