「セイジーっ! ホウエン地方と通信ができるようになったよー!」
バチッ。

ナナシマのひとつのとある場所。
たまたま見かけ、脳天を突き抜けるくらいの元気な声で話しかけてきたもえぎに、セイジはデコピンを喰らわせた。
「いったいなー! なにすんのよ!」
「どうせてめーの事だから、危ないことに首を突っ込んだんだろう?」
ウッ。と言葉を詰まらせるもえぎ。苦笑いを浮かべる目は、完全に泳いでいる。
「無事だったから良かったようなものの、下手したらケガをしたり死んだりしたかもしんねーんだぞ!」
「だってー。部品が足らなくてニシキさん困ってたし。
 まさかロケット団の残党が関わってくるなんて…」
「ロケット団!? お前、本当に出しゃばりだな」
「ご…ごめん」
「いい加減にしろよ。もしもお前に何かあったら…」
「…心配してくれてるの?」
おでこを押さえながら、上目づかいでもえぎが尋ねてくる。
「バッ…ババ、バカ言うなよ!」
声を荒げてセイジが言い返す。顔どころか首までトマトみたいに真っ赤になる。
「知ってるヤツが死んだら、夢見が悪いだけだよ!」
セイジの一言に、もえぎがしゅんとなる。
下を向いて、今にも泣き出しそうなもえぎの様相に、さすがのセイジも言い過ぎたかなと反省する。
「ま…まぁ、通信ができるようになったのは助かるかな」
少しだけフォローしてやろうと思い、とりあえず褒めてみた。
とたんに落ち込んでいたもえぎの顔が、パアッと明るくなる。
「本当? 本当? 良かった!」
「そのかわり、もう必要以上に危ない事をすんじゃねーぞ!」
「はーい。気を付けます」
ヘラヘラと返事をするもえぎを見て、セイジは盛大にため息をついた。
こういうときのもえぎの言葉は当てにならないことを、セイジはイヤというほど知っている。

「ところでセイジ」
「何だよ」
「ポケモンリーグで言いそびれた言葉、いつ教えてくれるの?」
「図鑑が完成したら」
「ずるい! 約束が違うじゃん!」
「危ない事したりする、果てしなく鈍いヤツに言っても仕方ねーしなー」
「鈍い言うな!」
「鈍いヤツに鈍いって言ってどこが悪い?」
「ひどーい!」
頬を膨らませて怒るもえぎを、セイジはかわいいと思ってしまう。
もえぎに対する気持ちは加速しているようだ。
「ケチー。教えてよ」
「ヤダ」
「教えてっ!」
「ヤ、ダ!」
「ちぇー」
あきらめたのであろうか、もえぎがクルリと背中を向ける。
下を向いて石ころを蹴飛ばしている様子もかわいいと、セイジは思う。
「相変わらず意地悪なんだから」
「意地悪で結構」
「セイジの口から聞きたいのにな」
「何とでも言え…」
とセイジは言いかけてからハッと気付いた。
「もえぎ、今なんて言った!?」
セイジが顔を上げるが、目の前にもえぎの姿はない。
もえぎは「待てー! ソーナンス!」と叫びながら、モンスターボールを手に走り去っていく。
「お、おい! ちょっと待てよ!」
セイジの呼びかけも空しく、一直線にソーナンスを追いかけるもえぎは、あっという間に見えなくなってしまった。
一人取り残されたセイジは、ポツリとつぶやく。
「…あいつめ…」
先ほど、もえぎが言った言葉を、頭の中で反すうする。

『セイジの口から聞きたいのにな』

「どういうことだ!?」
もえぎのことを、セイジが好きだと気付いているのか?
セイジから告白されたいのか?
それともただ言ってみただけなのか?
「どうなんだよー」
もえぎの意図がわからず、セイジは頭の中がグルグルになる。
「俺はあいつに勝てねーのか!?」
疑問を口にするセイジだが、答えはわかっている。

ほれた方の負け。

「ちくしょう。…でも、好きなんだよな…」
グルグルする頭を抱え、セイジは想い人がいなくなった方向を見てから、小さくため息をついた。
彼の苦悩は当分続きそうだ。


一方。
ソーナンスを捕まえて、ホクホクと喜ぶもえぎ。
ボールをマサキのパソコンに転送しているとき、ふと思い出した。
「あー! またセイジから聞きそびれた」
一つのことに夢中になると、そっちに突っ走ってしまう自分のクセを、改めて反省する。
「結局、今回も教えてもらえなかったな。
 ナナミさんのアドバイス通り『セイジの口から聞きたいな』って言ったのに」
もうセイジはいないかなと考えつつ、来た道を戻るもえぎ。
「まぁいいや。また今度聞き出してみよう。
 それに、今日はセイジにほめられたしね」
つぶやいてから、もえぎは「あれ?」と思う。
「セイジにほめられるのって、他の人にほめられるより嬉しいかも」
何でだろう? と首をかしげてみる。
「きっと、あんまりほめてくれないからだね。
 いつもツンツンしてるし意地悪だし、あたしが怒ったらキスして黙らせるし…。
 …あれ?」
自分が発した言葉に、もえぎは違和感を抱く。
「何でわざわざキスしたのかな? 他にいくらでも方法があるのに。
 …あれれ? なんか顔が熱いや。あれ?」
近くに誰かがいたが、もえぎの顔が真っ赤になっていることに気付いただろう。
しかし、もえぎに自覚はない。
「…えっと…これって…ひょっとして…?」
セイジから「鈍い」と評されたもえぎは、真っ赤になった顔を押さえ「どうしよう」とつぶやいた。


←前へ あとがきへ→


ポケモントップ 物語トップ

サイトトップ