二人が同時にボールを投げる。
セイジのポケモンはギャラドス、もえぎはラッタ。
ギャラドスがラッタを威嚇(いかく)し、ラッタの攻撃力を下げた。
ラッタは攻撃力の高さが命。先制攻撃はまぬがれないが、有利な展開だとセイジはほくそ笑む。
しかし、もえぎは表情を変えない。
「ララちゃん、いかりのまえば!」
素早いラッタの攻撃。鋭い前歯がギャラドスに食い込み、体力を半分削った。
「攻撃力に左右されない技もあるのよ」
「なるほどな。ギャラドス、ハイドロポンプ!」
体力に構わず、セイジはギャラドスに攻撃をさせる。
ポケモンに負担をかける戦いだが、もえぎを相手に甘いことは言ってられない。
どちらかのポケモンが一匹残るまで、勝負は決まらないだろう。
強力なハイドロポンプだが、ギリギリでラッタを倒すことができなかった。
とはいえ、体力が残りわずかなことには変わりない。
(ギャラドスが動けない今、もえぎはどんな行動をとるか。交代か? 回復か? それとも…)
「きあいだめ」
攻撃が来るかと思って構えていたセイジだったが、もえぎは次の攻撃に備えた。
次の攻撃で、大きなダメージを与えられる可能性が高い。
(ギャラドスが攻撃を受けたら、確実に戦闘不能になる。
でも、他のポケモンでも大ダメージは避けられないかもしれない。
やっぱりもえぎは簡単には勝たせてくれねえな)

今まで一番きつい戦いのはずなのに、気持ちが高揚している事にセイジは気がついた。
ギリギリの戦いを楽しんでいる自分がいる。
もえぎが気になって、戦いに手がつかなかった頃には無かった感情。

「悪い。ギャラドス」
肯定の色を瞳に写し、ギャラドスがうなずく。
「ひっさつまえば!」
ラッタの会心の一撃。巨体が崩れるように倒れた。
「この調子で勝ち抜くから!」
「させるか!」
セイジはウインディを出し、もえぎがゴローニャに替えてくる。

もえぎは戦いの間、勝ち気な笑顔を浮かべている。
セイジが好きな笑顔。
(やっぱり俺はもえぎが好きだ)
でも。

「ウインディ、じしん!」
ゴローニャの足下で起こる大きな揺れ。
こうかはばつぐん。勝負は一撃で決まり、ゴローニャはバッタリと倒れた。
「相手の苦手なタイプを出しても、有利とは限らないぜ」

今は戦いが楽しい。すごく楽しい。
もえぎというライバルがいて良かったと、セイジは心から思う。

「笑っていられるのも今のうちだから!」
次のポケモンを手にもえぎが言う。
もえぎに言われ、自分が笑っていることに、セイジは初めて気付いた。
「今のセリフ、そっくりそのまま返してやるぜ!」


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