結局、夕食も三人で食べ、月夜埜市外から通学している明里と志穂を駅まで送ってから、一紗は家に向かうバス停に並ぶ。
 楽しかったし、友人の気遣いは嬉しかったが、やはり一人になると気が重くなる。
「困ったなあ。いつまで落ちこんでるんだろう」
暗い顔でつぶやきながら、一紗はバス停から駅周辺の景色を眺める。
 駅ビルを中心に、周辺に連なる全国チェーンのお店。頭上にはペデストリアンデッキが伸び、駅とバス停や道路を繋いでいる。たくさんの人々が通り過ぎ、少し先にある交差点にはたくさんの車が行き交う。
 小綺麗だけど、どことなく漂う寂しさと空しさ。たくさんの人々は、そこに長く留まることはなく、別の場所へと去っていく。

 この世界も冷たい。参加するには運と努力が必要だ。一紗は何とか参加でき、学校ではそれなりの存在感を獲得している。いいことばかりではないし、悩みもたくさんあるけれど、一紗はこの世界が好きだし、今の自分は幸運だと思っている。

「暁彦くんも、マナも、多分ここに来たがっているよな」
 殺伐としたヨルの世界で生まれ育ったらしい暁彦。異能を得てしまい自分の部屋から出ることができない真奈美。
 少なくとも、今の二人は、自分の居場所が好きではなさそうだ。
「放っておきたくない。手伝えることがあれば助けたい。でも……」
暁彦にも真奈美にも、一紗は必要とされていない。必要にされる方法もわからない。彼らとは、やはり住む世界が違うのだろうか。そんな考えが頭をよぎる。
「ううん、そんなことない。まだ間に合う。きっと…」
自分で言いながら語尾がすぼむ。
「明日、マナの家に行ってみようかな。門前払いされるかもだけど、マナが落ち着いているときにもう一度話をしたいしね」
顔をゆがめて「もう来ないで!」と叫んだ真奈美を思い出すと、行っていいものかと迷う。だけど、真奈美はまだ話をする余地があると考える。
「暁彦くんは、無理だろうからね」
 色々考えているうちにバスが来た。一紗は思考を振り払うかのように、バスに乗った。


←前へ 次へ→