よのひめ商店街の隅にあるジェラート屋は寂れた雰囲気とは逆に混み合っていた。店内の席が空いていなかったので、一紗と真奈美は近くの小さな広場でジェラートを食べていた。広場に人はいなく、二人だけでベンチに腰掛けている。
「占いからいくと、日下部くんとの仲を深めるのに苦労しそうだね」
オレンジとチーズケーキ風味のダブルサイズのジェラートを食べながら尋ねる真奈美。心なしか妙に生き生きとしているようだ。
「あのねー…」
対して、答える一紗はどんよりしている。
「そんなんじゃねえってば。まあ確かに仲良くなるのは大変そうなのは事実だけど。あいさつしても返事してくれないし」
「がんばってあいさつしてるんだー。ふーん」
「だーかーらー。あいさつはただ、なじんでいない彼にクラス委員としてねー…」
「言い訳なんていくらでも作れるもんね。さっさと認めちゃいなよ。好きなんでしょ?」
「す…好きだなんて…」
しどろもどろに答える一紗の語尾がにごる。
 好きだのなんだのはさておき、命を助けられた上、ボロボロになった自分を背負ってくれた暁彦について、色々考えるなという方が無理である。
 それに。

『あんたには、あげない』

 姫野に言われた言葉を思い出す。

(あんなこと言われると、余計にどうしていいかわかんないよ)
「どもったね、森ちゃん」
あいまいな一紗の反応に、真奈美は鋭く切り込んでくる。
「で、本当のところは日下部くんのことをどう思ってるの?」
ニヤニヤしながら尋ねる真奈美。が、一紗はキョトンとする。
「どうしたの?」
「…私、日下部くんのことをどう思ってんだろう…?」
「はあ?」
一紗のマヌケな答えに真奈美もマヌケな声をあげる。
「自分の気持ちくらいちゃんと把握してなさいよ」
「そんなこと言われても…あー…えっと。ごめん、ちょっとトイレ」
勢いよく一紗は立ち上がり、真奈美の返事を聞かずに近くのコンビニへ走っていく。
 友人を見ながら「結構、脈あり?」とつぶやいた真奈美の言葉は、幸か不幸か一紗の耳には届かなかった。


 コンビニで形だけのトイレを借りた一紗は、雑誌を立ち読みするフリをして真奈美の質問を反すうしていた。
「確かに、さして仲良くもないのに毎日あいさつをしていたら気があるって思われるよな」
一紗自身はそういう意識を持っていなかったが、自分の行動を周りから見るとからかわれても仕方ないかと考える。クラスになじまない暁彦に少しでもなじんでもらおうとしているつもりなのだが、暁彦の立場やミステリアスなところに興味があるのだろうとは推測できるし、態度が硬いままなのでヤケになってあいさつをしていた部分もあるだろう。正直なところ、はっきりとした理由が思いつかない。
「マナの言葉じゃないけど、自分の気持ちくらいには責任もとうよ私」
口ではそういう一紗だが、考えれば考えるほどわからなくなってくる。
「わからんもんはわからん。ひとまず戻るか」
あっさりと気持ちの整理を放棄した一紗は、雑誌を閉じてコンビニを出ようとする。
「あれ?」
雑誌コーナーから離れようとした一紗は、前の通りを歩く外にはねた黒髪で目つきが鋭い少年を見つけた。
「日下部くんだ…って、なんで顔が熱くなるんだよ」
ほおを赤く染めながら、一紗は暁彦が見えなくなるまでコンビニに閉じこもっていた。


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