嵐が過ぎて


吹きすさぶ風。
激しい雨。
木や草が覆い繁っている森が、嵐に翻弄されている。
比較的雨風が当たりにくい大木の下にいるが、風向きによっては水しぶきが顔や体に当たる。時折、葉や枝も混ざっている。
豪雨と暴風の音に紛れ、バキバキと木が折れる音が響く。
大嵐の中では、うかつに動けない。
そもそも、足を痛めているため、動きようがない。
無いよりましなので羽織っているが、雨ガッパはあちこちに穴が開き、ほとんど機能を果たしていない。
連れてきたポケモンたちは、嵐がひどくなる前に逃がした。
トレーナーを連れて嵐の中を飛ぶ元気がなくなっていたので、せめてポケモンだけでも助けようと考えたのだ。
助けを呼んでもらう意図も無くはないが、手紙を付けてないので、ほとんど当てにならない。
食料は、万が一のことを考え二日分くらいは持ってきておいたが、それだけだ。
第一、ほとんどの食料は水浸しになっている。
体中がぐしょ濡れで、嵐の中にうずくまっている事を考えると、餓死より先に凍死の危機が頭をもたげる。
(俺、死ぬのかな)
寒さで震える体をさすりながら、ヘキはぼんやりと考えた。
ここで一応の雨宿りをしてから、何時間経ったのだろうか。
今が何時なのかさっぱりわからない。
何日もここにいる気がするが、半日は経ってないはず。
雨宿りをした時より辺りが暗く感じるのは、時間の経過か天候の悪化か、あるいは両方なのかは不明だ。
せめてポケナビがあれば、時間やおおよその場所がわかるのだが、落としたのか忘れたのか、今は手元にない。
(死ぬ前に、もう一度みんなに会いたいな)
自分の大切な人たちを思い浮かべる。
お父さん、お母さん、仲間のポケモン達、そして…べにばな。
「べにばなに告白しておいてよかった」
彼女の笑顔を思い浮かべながら、ヘキは小さくつぶやいた。
たとえ、かなわない思いだったとしても。


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