白とピンクを基調とした、かわいらしい部屋。だが窓はなく、外の雨音もここには響かない。
 やはり白いソファに、白いワンピースに黒い長い髪の、人形のような美少女が座っている。
 つい先ほどまでスーツを着た女がいて、自分と部屋を整えた後、出て行った。鍵をかける音が昨日より一つ増えていることに、少女は気づいた。
「今夜なんだわ」
自分を捕まえて、連れ戻そうとしている連中が、今日の夜にここにやってくる。
 彼らには捕まりたくないが、今のまま、ここにもいたくない。
「暁彦は来るのかしら」
少女は、双子の兄の姿を思い浮かべる。彼には一度メッセージを送ってしまった。寂しさのあまりしてしまったが、教祖の真の狙いを知った今では、後悔している。
 彼の身が危ないこともある。だが、少女にはそれ以上の懸念があった。

 自分と兄が、出会ってはいけないことを知ってしまった。

「お願い、暁彦。どうか来ないで。あなたと私が触れあったら、世界が狂うわ。それでなくても、私は他人の人生をおかしくしているのよ」
医者でさえ原因がつかめない、眠り病患者と呼ばれた人たちを、少女は何人も起こしてきた。その中の一部が、アシアナ教会に入信したことも、彼女は知っている。
 ここに来る信者は、本当に教えを信じている人もいるが、他に居場所が無くて来た人も多い。
「暁彦に会いたい。でも、会ったらいけないの。だから来ないで。私を忘れて、あなただけでも幸せに暮らして」
少女の目から涙がこぼれる。泣き顔すら、目を見張るほど美しい。
「お願い、どうか私の願いを聞き入れて…」
目をつぶると、もう一粒、涙がこぼれる。
 そのまま、少女は動かなくなった。


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