東京から2時間、県庁所在地から1時間の場所にあるK県の衛星都市、月夜埜(つくよの)市。
 新旧の街並みが入り交じる、特に目立った特徴があるわけではないこの街に、なぜか表の世界に受け入れられない人々が集うのである。


 月夜埜市の中心街の西端。ニュータウンに近い場所に建っている、外壁の補修が終わったばかりの古いアパートの一室である、リフォームされたフローリングの部屋。
 亜麻色のショートヘアーに、豊満な肉体。彫りが深いハーフであろう20代後半くらいの美女が、機嫌悪そうに電話で話をしている。
「ええ、だからまだなんです。こっちにも都合があるんですよ」
〈わかっている。ところでおまえの部下に、日下部暁彦を仕留めることができる人間はいるのか?LH〉
「残念ながらいません」
LHと呼ばれた女は、吐き捨てるように答える。
「だから、私が直接動こうと思います」
〈ダブルネーム自ら動くのか〉
「余裕がないとおっしゃったのはCではありませんか?」
〈まあな。そろそろ動かないと上がうるさいからな〉
全くあわてる様子もなく、のんびりと答えるC。常にこういう話し方なのでLHも気に留めない。
「可能ならば仲間に引き戻す。ダメならば殺してもかまわないんですよね」
〈ああ。彼の存在は脅威となるからな。かわいそうだが…〉
「承知しました」
〈頼んだよ〉
それだけ言って、Cの電話は切れた。
「やれやれ。結局こうなるのね」
電話をテーブルに置き、女はため息をつく。
「あの子、戻らないでしょうね。できれば自分で殺したくはなかったけど、仕方ないか。割り切んなきゃね」
LHはつぶやくと、大きく伸びをした。


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