薄暗い部屋に灯りがつき、いくつもの太いパイプが繋がった円筒形の機械の入り口が開  き、中から全裸の少女が現れた。
 近くにいた眼鏡の美青年が、少女にバスローブを手渡す。細身で凹凸は少ないとはいえ、全裸の女性を前にしても、青年は眉一つ動かさない。
「予想よりうまくいったみたいね」
バスローブを羽織った、少女にしか見えない女性、姫野真咲は、邪悪な笑みを浮かべながら話す。
「こっちが仕掛けた情報に、あいつが食いつくとは思わなかったわよぉ」
「暁彦くんの情報を集める為に『逃亡少年を捜せ』という記事を書いたのですけどね」
淡々としゃべる忠治を見ずに、姫野は笑みを浮かべたまま話を続ける。
「…森永一紗。おもしろい娘じゃない。
 あいつに情報を与えたら、いろいろ引っかき回してくれそうねぇ」
クスクス笑う姫野。忠治は主人を無表情に見つめている。
「話しかけるな。ってアキとちゅーじには言ったけど、あれ、取り消しにするわ。うまく利用すれば、門衛の邪魔くらいはしてくれそうじゃない。
 ひょっとしたら奴らに目を付けられて、殺されたり仲間にされちゃうかもしれないけど、それは自業自得でしょ。
 …あれ? 何その顔。ちゅーじはこの案、気に食わない?」
「いいえ。ご主人様がおっしゃるならば、その通りに計らいます。
 ただ…少し昔を思い出していただけです」
「そっかー。ちゅーじも逃げ出してきたんだっけー? アハハ、ごめんごめん」
全く悪びれもせず、言葉だけで謝る姫野。
「でも、ちゅーじも悪いのよ。あたしの許可無く、あいつに携帯番号教えたでしょ」
「申し訳ありません」
素直に頭を下げる忠治を、姫野はおもしろくなさそうな目で見る。
「謝りゃすむと思ってんだから、単純よねぇあんたは。
 ま、いいわ。悪いと思ってんなら…」
 姫野はあごを動かし、忠治にそばに来るように指示をする。
 逆らうことなく主人の目の前まで来た忠治の腰に、姫野は手を回す。
「あたしを抱きなさい」
少女のような外見からは想像できない妖艶な笑みを浮かべ、言った。
「…仰せのままに」
 淡々と答える忠治は、姫野が羽織っているバスローブに手をかけた。


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