つぶやいたとき、隠し扉の奥から争うような声が聞こえた。
「何だ?」
三人が不思議に思っていると、礼拝堂の隠し扉から人が出てきた。真奈美を含めた、四人の人物。
「マ、マナ?」
真奈美の他、70代くらいの老人、30代後半くらいの女性、20代後半くらいの男性が一紗たちの近くにやってくる。
「ごめんね。森ちゃんたちが言っていたことは本当だったんだね」
「君たちの声を中から聞いて、敵がここを突き止めたと思ったんだ」
「あんたらが来たから奥の隠し扉の場所がばれたと言っておった奴もいたがな。だが少なくともあんたらは、ここを襲撃した連中の味方でないことはわかった」
「あなたたちなら、安全な場所に連れてってくれるの?」
争っているときの音を聞いたのだろう。隠し部屋に門衛のエージェントがやってきたことを知り、アシアナ教会員に不安が広がり、結果逃げる人が出てきたのだろう。
「今のところは、ここを離れるのが安全でしょう。ただここを出ると、おそらく戻ることはできませんよ。それでもいいなら付いてきて下さい」
四人は顔を見合わせる。やはり不安なのだろう。
「あの…」
悩んでいる真奈美たちに、一紗が話しかける。
「皆さん、マナも含めて眠り病にかかった方じゃないですか?」
一紗の言葉に、四人はびっくりして顔を見合わせる。
「そうですけど、どうしてわかったんですか?」
「皆さんが、眠り病が治ってからアシアナ教会に行った人たちの性別と年齢が同じくらいなので、そうかなって思っただけです」
少しためらう様子を見せたが、バラバラに全員がうなずく。
「森ちゃんなら理解してもらえると思うけど、みんな、アシアナ教会で眠り病を治してもらってから不思議な力を持った人たちなの」
「え?」
老人が「なんてことを話すんだ」と真奈美をとがめたが、彼女は逆に「この人なら大丈夫です」と言い返した。
「異能は様々だったけど、みんなに受け入れられるのか、嫌われたりしないかって怯えていたのは一緒だったの。
 そこに教祖さ…教祖が来て…」
「君たちに『アシアナ教会なら、力を押さえることができる』と言ったわけだ」
黙ってうなずく真奈美。
「さっきの争いも中にいる異能者のおかげで、だいたい把握できた。他の人とは違って、私たちはここに来て日も浅く、まだアシアナ教会に対して半信半疑だったから、ここを離れようって思えたの」
「もう一度言います」
克巳が真顔で四人を見る。
「間違いなく、今は教会から離れた方が安全だ。でも、ここには二度と戻れないと思っていい。それでも、外に出ますか?」
四人は顔を見合わせ、考える。
「行くわ。私は、森ちゃんを信じる」
まっすぐに一紗を見つめ、真奈美がキッパリと言った。
「教祖のこと、どこかうさんくさいと思ってたからな」
「どのみち扉から出ちゃったから、もう戻れないわ」
他の人たちも口々に言う。一紗はつられて笑顔になる。
「じゃあ外に出よう。油断は禁物だ、気をつけて」
克巳を先頭に、一行は通路を戻っていった。


 幸い、外に出るまでは誰にも見つからなかった。
 外に出て車の隠し場所に行くと、克巳は真奈美以外の三人に誰か運転できないかと尋ねる。三人とも運転できると答えたので、克巳は車の鍵とお金を渡した。
「車でそれぞれ帰ってください。車はどこかのコインパーキングに停めて、鍵は真奈美ちゃんに渡して下さい。真奈美ちゃんから一紗ちゃんを通して、鍵を返してくれればいいから」
「なんでそこまで。我々はあんたらに散々文句を言ったのに…」
「ただのお節介ですよ。
 でも皆さんが戻っても、力についての問題が解決するわけではありません。むしろ、より厳しい現実が待っているはず。立ち向かえるのは皆さんだけです。覚悟して下さい」
青年に鍵を渡しながら、克巳が言う。
「そろそろ行った方がいいわね。中の奴らが告げ口していないとも限らないわ」
「そうですね」
青年が言って、四人が車に乗り込む。
「皆さんの無事を祈ってます」
「森ちゃんは来ないの?」
友人の言葉に、一紗は苦笑する。
「もう一人、話をしたい人がいるから」
困ったような笑みを浮かべる一紗を見て、真奈美も微笑んで、言った。
「森ちゃんが命がけの恋をするなんてねえ」
「命がけって…あ!」
教会内にいたときは忘れていたが、真奈美の異能は、相手の心が活字になって見えるというもの。質問に答えたとき、頭に浮かんだ暁彦のことを、真奈美が読み取ったのだろう。
「でも、死んだらダメよ」
真奈美が言い、返事を待たずに車に乗り込む。
(ぎゃあーっ!!)
走り出す車を見送りながら、顔を真っ赤にした一紗は心の中で叫んだ。


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