なかなか寝付けないので目だけでもつぶっていようと思っていたが、いつの間にか寝ていたらしい。
「一紗ちゃん、起きてちょうだい」
銀子に体を揺すられ、寝ぼけまなこで一紗は起き上がる。
「ふあ…奴らが来たんですか?」
「まだだけど、少し打ち合わせがしたいんだ。次は銀子さんが休んで」
「そう? じゃあお先に」
今度は銀子が後ろの座席で横になる。
「本当はもう少し早く打ち合わせをしたかったんだけど、なにせアシアナ教会の情報が乏しくてね」
「教会内部の構造とか、全然わかりませんもんね」
「さっき銀子さんに偵察してきてもらったんだ。まだ門衛は来た様子は無かったけど、教会内に人影が見えたあたり、襲撃には備えているようだ」
「だとすると、こっちが先に潜入。という手段はやめた方がいいですね」
「そうだね」
一紗は、わずかな隙間から見えているアシアナ教会を眺める。半月が過ぎたくらいの月明かりに照らされた建物は、修道院を兼ねた教会というより、月夜埜市の奥にたたずむ要塞に見える。
「だから、組織の連中が潜入してから、少しだけ間を置いて入る。という方法を取ろうと思う。
中では、基本三人行動。本当はバラけたいけど、万が一の戦力を考えたら一緒に行動した方がいい。もしはぐれてしまったら、車に戻る。まどろっこしいけど、自分の命を最優先させてほしい」
「はい」
「まずは、真奈美ちゃんと父を捜そう。教会側が襲撃の準備をしているということは、戦う力がない彼らはどこかに避難しているだろう。
例の組織より先に見つけないと、彼らは殺される可能性がある」
「殺され……」
血の気が引くのを一紗は感じる。自分たちの正体を知られたくない門衛は、姿を見た人々を皆殺しにしかねない。
「わかりました。マナたちは先に見つけましょう」
「彼らを見つけたら、まずは外に逃がそう。その後僕たちはもう一度中に入り、梨乃ちゃんを捜そう。組織の奴らに先に見つけられたら終わりだ。僕らにはどうしようもない」
「理想は、梨乃さんが一人でいる状態ですけど」
「理想だけど、まず無いだろうね。例の組織と教会員が争っていたら、隙を見て助け出せるかもしれない。うまくいくかはわからないけど」
「暁彦くんたちが先に見つけていたら?」
「その時は、一紗ちゃんに任せるよ」
楽しそうに答える克巳の言葉に、一紗は顔を赤くする。
「面倒なのは、組織の連中と暁彦くんが鉢合わせしたときだ。基本は隠れて、状況を見守る」
「暁彦くんたちに加勢はできないですか?」
「加勢できるならしてもいいけど、この場合、僕らの姿は見られる。連中に報告されることだけは避けなければ行けない。どういう事かわかるよね」
一紗は答えない。
自分の正体を知られないようにするため、相手の口封じをする。ということ。
「結局は、僕らも奴らのやり方と変わらなくなる」
「どのみち、襲撃が始まったら時間はないですね」
「ああ、まだ始まっていないみたいだし…」
二人は、車の中からアシアナ教会を見る。月明かりに照らされ、黒く浮かび上がる建物。やはり要塞みたいだ、と一紗が思ったとき。
突然、入り口が大きな音と共に、勢いよく炎と煙を吐き出した。
「なっ!?」
一瞬、事態が飲み込めなかった二人だが、次の瞬間には身支度を調え始める。
「やること派手すぎ!」
「賑やかね。こっそり入るにはちょうどいいけど」
眠っていなかったのかすぐに起きたのか、銀子は既に身支度を調え終わっている。一紗はウエストバックを着け、克巳は帽子を被る。
三人がいつでも行ける準備をしている間、どこに隠れていたのか、20人くらいの人影がアシアナ教会へと入っていく。
「全員入った一分後に、車を出よう。周りに人が残っていないか気をつけて」
人影は次々と突入し、あっという間に見えなくなった。
それでも、動いている影がないかよく確認してから一分後、銀子の合図で三人は車を出た。
「入り口から入ろう。もう誰も来ないとアシアナ教会の連中は思っているだろうから」
周りに用心し、ドアと壁の残骸を踏まないように気をつけながら、建物に入った。
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