星降る夜の子ども達


 今にも降ってきそうなくらい、たくさんの星がまたたく夜空。
 星に囲まれたマサラタウン、オーキド研究所の前に、二人の少年が立っていた。
 二人とも赤い上着に赤いズボン、赤い帽子を身につけて、白い袋を持っている。
誰が見てもサンタクロースの格好とわかる。
「おっせえな、もえぎは」
 ツンツンにとがった茶髪にツリ目の少年、セイジがブツブツと文句を言っている。
「寒いんだから早く来てくれよ」
「仕方ないさ。女の子は身支度に時間がかかるからね」
ダークブラウンの髪の少年、アサギがセイジをなだめる。
「ったく。早くしろってんだよ。じいさんの研究所前を待ち合わせ場所にするんじゃなかったぜ」
もえぎの家の方角であろうか。遠くを見つめながらセイジがブツブツ文句を言う。
「んなこと言ったって、早くしねえとプレゼントを配る時間がなくなるぞ。
 そもそも、どうして俺たちがマサラタウンのガキ共にプレゼントを配らなきゃなんねえんだよ。俺らだって子供じゃねえか」
「しょうがないさ。今年はオーキド博士の手が空いてないんだから」
「とは言ってもなあ。僕らも毎年プレゼントをもらっているし」
「そうだけど…」
 マサラタウンでは、毎年、オーキド博士が子どもたちにプレゼントを配っている。
しかし今年は、助手共々、重要な学会に出席しなくてはならなかった為、代わりに孫のセイジと、隣人のもえぎとアサギがサンタ役に抜擢されたのだ。
「僕らは役割の報酬に期待しよう」
「それなりのものをもらわねえと、割に合わないな」
「ごめん。お待たせ!」
 二人の元に、ダークブラウンの髪の毛をなびかせ、少女が駆け足でやってきた。
「準備終わった?」
「おっせえぞ!もう少しで凍え死ぬところだったぜ」
「ごめんごめん。思ったより支度に時間かかっちゃってさ」
 アサギの双子の姉でセイジの幼なじみの少女、もえぎは、やはり赤い帽子に赤い服を着ている。
違うのは、もえぎはスカートで、白いボンボンが付いたポンチョを羽織っていることだ。
 走ってきた為か頬を真っ赤にし、申し訳なさそうに笑顔を浮かべるもえぎを見て、セイジの顔も赤くなる。
 セイジはもえぎに、目下片思い中。いつもと違う姿を見て戸惑うのは、当然と言えるだろ。
「よく似合ってるじゃん。母さんが作っていた時からかわいい服だと思ってたけど、着るともっとかわいいよ」
ニッコリと笑ってアサギがほめる。
「本当? ありがとう。セイジは似合ってると思う?」
言いながらクルリと回るもえぎ。少女の動きに合わせて、スカートとポンチョがふわりと舞う。
茶髪の少年に、明らかに動揺が走ったが、すぐにプイと横を向いてしまう。
「馬子にも衣装。という言葉を作った人間を、偉大だと思ったね」
「ちょっとお。それ、どういう意味?」
「真っ赤っかだから、サンタには見えるって事だよ」
もえぎがぷうと頬を膨らませて怒る。
だが、怒りに混じって、落胆の表情もにじみ出ている。
 双子の姉の様子を見たアサギが、ヒョイと白い袋を二つ持った。
「北側と中央は、もえぎと僕で行こう。南側のこの付近はセイジに任せよう」
「おいおい。勝手に決めるなよ」
セイジが反論するが、アサギは無視してもえぎの手を取る。
「途中まで一緒に行こう、もえぎ」
「うん」
「ちょ…ちょっと待てよ…」
慌ててセイジが止めようとするが、アサギはさっさとピジョットを出し、二人で乗ってしまう。
「オドシシがいればもっと雰囲気が出るんだけど、カントーにはいないからな」
「おい! 待てって言ってんだろうが!」
怒鳴り声を聞いて、面倒くさそうにアサギが振り向く。
「かわいくないもえぎとは、一緒にいたくないんだろ?」
答えるアサギの口元に笑みは浮かんでいるが、目は全く笑っていない。
「な…。い、いつ俺がかわいくないなんて言ったか?」
「じゃあ、かわいいと思ってるんだ。そうなんだろ? 答えてみなよ」
「そ、それは…」
目を反らし、湯気が出そうなくらい真っ赤になるセイジ。口をモゴモゴと動かしているが、言葉が出てこない。
 少しの間、幼なじみの様子を見ていたアサギだが、小さくため息をつくと、後ろに座っているもえぎの方を向く。
「セイジも了解したみたいだし、そろそろ行こうか」
「うん。セイジも頑張ってね」
 バサリとピジョットが羽根を広げて、夜空に舞い上がる。
 去り際に、アサギが再び笑いかけた。
今度は瞳に、呆れと同情の感情が浮かんでいる。
「素直になったら、今回は譲ろうと思ったのに」
セイジにしか聞こえない声で、ポツリとアサギは言った。
「なっ…?」
 セイジが呆然としている間に、双子のサンタは、星が瞬く夜空の中に消えていった。
「…あいつ…」
 一人残されたセイジは、やり場の無い怒りに震えている。
「もえぎをほめなかったのが、そんなに気に喰わなかったのか!?」
言いながらも、落胆したもえぎの顔が頭に浮かんだ。
「…ちえっ」
 面白くなさそうに舌打ちをしたセイジは、白い袋を持ってトボトボと歩き出した。


 後日、マサラタウン南側を回った茶髪のサンタが愛想が悪いと、あちこちの家から苦情あり、オーキド博士に怒られてしまった。
セイジにとっては、散々なクリスマスであった。



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