節分ラプソディ


「鬼はー外、福はー内」
 マサラタウンのあちこちで聞こえるかけ声。
その中の一人、ダークブラウンの長髪の少女も、鬼を追い出し、福を招いている。
 家の内外に炒った大豆がばらまかれる。
「まだやるの? もえぎ」
もえぎと呼ばれた少女の後ろにいる、もえぎににている少年が、豆入りの升を持って話しかける。積極的に豆をまく気はないらしい。
「何言ってんのよアサギ。まだ全部の部屋にまいてないもん」
むくれながら返事をしたもえぎが豆まきを再開する。鬼は外の時に、窓の外にも盛大に豆をまく。
(後片付けが大変だぞ。手伝う気はないけど…)
と言いつつも、どうせ手伝っちゃうんだろうなと心の中でため息をつく。
「あんまり外にまくと、母さんに怒られるよ…」
そろそろ止めた方がいいだろうと、アサギが声をかけた時。
「こっちに豆を投げるな!」
と、隣から怒鳴り声が響いた。
 声がした隣の家を見ると、茶髪のツンツン頭の少年がギャンギャン騒いでいる。
「お前なあ、豆まきなら自分の家ん中でやれよ! 俺ん家にまで飛ばすな!」
「いいじゃん、今日は節分だよ。セイジの家にも福が入ったよ」
「『鬼は外』でまいた豆で福が入るか!」
「一緒一緒」
「一緒じゃねーっ!」
「…母さんの前に怒る奴がいたか」
言い合っている二人を後目に、アサギはつぶやく。
 幼なじみで家が隣のセイジとは、それこそ赤ん坊の頃からの付き合いだ。
「いい年して豆まきかよ。もえぎはお子ちゃまだなあ」
「なによお! 伝統行事をバカにするほうがお子ちゃまだもん!」
ムッとしたのか、もえぎは豆をわしづかみにし、セイジに投げつける。
「いってえなあ! 何すんだよ!」
「セイジー外、セイジー外!」
文句を言うセイジにかまわず、もえぎはさらに豆を叩きつける。
「てめえ、いい加減にしろよな!」
セイジが窓際から消える。バタンドタンと扉の音と足音が響く。
 逃げたのかな。と二人が思っていると、再びバタバタと音をさせて、セイジがやってきた。
 手には豆入りの大きな升。
「鬼は外! もえぎ外!」
やってきて即座に、セイジは豆を投げつける。
「やったなっ。鬼は外!セイジ外!」
「鬼は外! もえぎ外!」
「鬼は外! セイジ外!」
「もえぎ外!」
「セイジ外!」
あっという間に豆投げ合戦が始まってしまった。
「あーあ。どうしようかな…」
 一人取り残されたアサギは、あきれ顔でやりとりを眺めている。もえぎに加勢しようと思ったが、激しい大豆の応酬に割り込めそうにない。
「もえぎ外!」
「セイジ外!」
「もえぎ外!」
「セイジ外!」
豆の応酬はまだ続いている。
「ムキー! 頭きたっ! セイジ外!」
もえぎは升を頭上に掲げ一気に前へ振り下ろすと、大量の大豆がセイジに襲いかかる。
「てんめえ…。俺を本気で怒らせたな!行け! フシギバナ!」
セイジはモンスターボールからフシギバナが現れる。
「マメマシンガン!」
いつの間に仕込んだのか、自分の種の代わりに大豆を発射する。
「バリヤン、リフレクタ! でもってテレキネシス!」
もえぎもバリヤードを出し、ポケモンの技で大豆を防いだ後、豆が方向転換をしてセイジに反撃をする。
「こんにゃろう。マメマシンガン!」
「テレキネシス!」
ポケモンの技により、お互いに豆がぶつかり合う。
 さすがに止めるか、あるいはとばっちりを受ける前に逃げ出した方がいいかな。とアサギが考えていた時。
「アイタッ」
狙いが外れた豆が、ちょうどアサギに当たった。
 もえぎとセイジは、お互いに豆をぶつけることに夢中になっている。
 二人とも怒り顔だが、どことなく楽しそうだ。
 豆をぶつけられた場所をさするアサギは、スッと手を後ろにまわす。
「マメマシンガン!」
「テレキネシス!」
「もえぎ外!」
「セイジ外…うわっ!?」
「へ?」
 一心不乱に豆をぶつけ合っている二人の間に、突然、炎が走った。
 大豆は炎に包まれ、けし炭となってパラパラと舞い落ちる。
「二人とも、程々にしとけよ」
炎が出た方向を見ると、リザードンを出したアサギが仁王立ちになっている。全くの無表情だ。
「豆まきならいい。ばらまくのも、まぁ許す。けど、これ以上豆をぶつけ合うなら…」
アサギは双子の姉と幼なじみの隣人を交互に見ると、厳かに宣言した。

「もえぎが5歳の頃の台所での出来事と、セイジが4歳の頃の公園での出来事を言いふらす」

 途端に、もえぎとセイジの顔から血の気が引いた。
「い、いや何かちょーっと熱くなっちゃったかなあ」
「そ、そうだねヒートし過ぎたね」
「ま、豆、片付けようぜ」
「そそ、そうね。それがいいわねっ!」
真っ青な顔で引きつった笑みを浮かべながら、二人はわたわたと豆を片付け始める。
「母さんとナナミさんに見つかる前に片しときな」
慌てた様子の二人に釘をさし、アサギは部屋を出ていった。


 階段を下りるアサギ。当然かもしれないが、疲れた顔をしている。
「お子ちゃまなのはどっちもどっちだな」
言いながら、先ほどの二人のやり取りを思い出す。
 豆をぶつけ合った二人。豆と一緒に感情もぶつけ合っていたようだ。
 お互いしか見えてなかったやりとり。
 二人のバトルを端から眺めていたアサギ。
「仲間外れみたいで面白くなかったなんて、恥ずかしくて言えるかよ」
少しだけ気まずそうにアサギがつぶやく。
「僕も存分にお子ちゃまだよなあ…」
今頃、必死に豆を片付けているもえぎとセイジを思いながら、アサギは大きなため息をついた。



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